改革を恐れず一新、醸造を楽しむ阿部酒造
更新日:2021年8月27日
新潟中心部中越地域の柏崎に蔵を構える阿部酒造。”現代の食事に合う酒”をとことん追求し、洋食に抜群に合う☆(スター)シリーズ、旨味と酸味が際立つあべシリーズなど、日本酒ファンの間でじわじわと人気が高まる酒蔵です。

東京の大学へ行き、就職。地元の新潟に戻ることはもうないだろうと思っていたという次期6代目蔵元の阿部裕太さん。就職した会社では、新潟の飲食店や生産者を巡り、特定の食材や材料をメニューに取り入れて提供してもらいながらお客さんの反応を探るテストマーケティングのような仕事を担当していました。飲食店での日本酒の提供のされ方、特に新潟の酒がどれも「淡麗辛口」を特徴にして差別化できていないことが目につく一方で、「やりようによってはまだまだ売れる可能性があるのでは」と可能性を感じたと言います。
そこから一念発起、改めて家業を継ごうとUターンする方の話はよく聞きますが、阿部さんが戻った2015年には、先代の父が祖父から代替わりしたタイミングで、清酒製造業から酒販業メインとなり、製造していたはわずか40石程度(一升瓶4,000本分)と、酒造業としては廃業寸前の状態でした。あと3年遅かったら完全に酒造業から手を引こうと思っていたと父からも告げられたと言います。
とは言っても日本酒造りは素人、当時東京にあった醸造試験場や、他の酒造会社の在り方を学び、自分なりに咀嚼。ただ学んだ事を真似するのではなく、自分自身が美味しいと思える味わいを大切に、消費者に求められる酒造りをしようと貪欲に取り入れていきました。歴史ある蔵とは言え、ほぼゼロからの再スタート。時代に合わせて自社の酒造りを全て変えなければだめだと一から造り上げていきました。
また会社もベンチャー的感覚が強く、共に働くメンバーは従業員と言うよりチーム。自らの経験もあり、見たい・一緒に働きたいと集う人には門戸を広げています。毎年顔ぶれが変わるチーム。HPに「今年はこのチームで造ります」と顔写真があることで親しみが湧きます。

チームであえて選んだという生酛造りは、麹菌の発酵の様子が目に見えて明らかで手間はかかっても造り手としてやりがいを感じられる作業。一方で新酒の時期11月完成に間に合わせようとすると休みもそこそこに夏場から稼働しなければならなくなります。また将来、自社での米作りを視野に入れている阿部酒造にとって、米作りと酒造りの期間が被ってしまう期間が長いのは痛手となります。
そんな中生まれた新たな製法が「冷凍生酛仕込み」です。
通常30日程度かかる生酛仕込みの工程のうち、前半の20日分を前の醸造期に仕込み、特殊な方法で冷凍保存しておく。そして次の醸造期に解凍し、残りの10日分を仕込む、というもの。こうすることで、醸造日数が短縮され問題点が解決されるとともに、新酒の時期に他の酒蔵に先駆けて生酛仕込みの酒をリリースすることが可能になりました。
それが企画品「あべ 僕たちの酒 Vol.7 冷凍きもと仕込み おりがらみ無濾過生原酒」。
「僕たちの酒」シリーズは、酒造りを共にした仲間が1年間を振り返り、卒業制作の様に発表する酒。「酒造りを楽しんでもらうことがまず第一。楽しくないと続かないし、楽しんで造っているものは、お客さんの心にも届くはずです。」

「最近は自分のように、(酒造業関係者ではなく)外から入ってきて酒造りに携わる人が増えてきました。日本酒業界はまだまだ面白くなると思いますよ」との言葉どおり、実際に阿部酒造を卒業したメンバーが各地で醸造所を立ち上げています。他の業界で働いてきた経験が自由な発想に繋がり、これからの日本酒業界を盛り上げていく。なんとも楽しみな展開が期待できそうな酒蔵です。

【基本情報】
阿部酒造