日本列島のほぼ真ん中の静岡市清水区に所在する三和酒造。
前身となる鶯宿梅酒造の創業は貞享3年、昭和46年に静岡市内の3社、「鶯宿梅酒造」「小泉本家」「清水酒造」(いずれも創業は元禄年間と歴史ある酒造)が合併して出来ました。現在経営は旧鶯宿梅酒造(鈴木家)に一本化していますが、三和酒造の名前は残しています。三和酒造専務の鈴木考昌さんにお話を伺いました。
Q 三和酒造の銘柄名「臥龍梅(がりゅうばい)」の由来は何から来ているのでしょうか
「臥龍」とは地にひそみ隠れている龍の意味で、志をのばす機会を得ず民間に隠れていた英雄、諸葛孔明の例えがあります。「清見寺」にあった頃の家康もまさに地にひそみ隠れていましたが、その後龍が天にのぼるがごとく天下人となりました。幼い頃家康が植えた梅もまた、三百年の月日を経て大木に成長し龍が臥せた様な見事な枝振りに。どこか家康自身の境遇とリンクする所があり、「臥龍梅」と呼ばれるようになったそうです。
先々代の時代(15代目の時)、当時の世間の流れは大量生産が主流でほとんどが地酒とは名ばかりの桶買いが主体でした。三和酒造は自社で製造販売を一貫していた為、先代(現社長)の時にこのような状況を打破したいと押し出されたのが「臥龍梅」。吟醸のブームの中では遅く、静岡で最後発になりますが、やがては天下の美酒と謳われることを願って命名されました。
Q 鈴木さんは直ぐには家業を継がず他の仕事をされていたとの事ですが、勉強の為だったのですか
当初、酒蔵を継ぐべきかどうかは先代も私自身も迷いがありました。どちらかと言うと継がないつもりで大学・就職活動と進んでいき金融系企業のIT部門に就業しました。テクノロジー進化が早い業界なので、日本酒業界と真反対の世界。ただその反面、醸造には人間の本質的な部分がある事に気づき魅力を感じる様になり、30歳で結婚したのを機に実家に戻り継ぐ事を決意しました。
入った当初は後継者というよりもまずは慣れる事から始め、紙で管理していた処理をデータ化していったり電子会計にしたり、気になる事を少しずつ改善していきました。
また東京にいた時の感覚を活かしてコンセプトを深堀りし、ECサイトの開設、SNSや動画を活用し目に留まる機会を増やしていく事に力を入れていきました。動画は海外の方にもアピール出来る内容にしています。こうした事はコロナ禍の前から取り組んでいたので、良い方向に繋がれたと思います。
Q 三和酒造のお酒造りのポイントを教えてください
これは先代とも良く話している事ですが、「自分が美味しいと思ったお酒を売る」という事を基本姿勢として大切にしていて、すべての商品は、私と社長とで全てのロットのものを試飲して出荷の可否を判断しています。また一度市場に流通したものを購入してどの様な味わいになっているか確認しています。
工程の特徴としては、
洗米工程・・・全量限定吸水(本醸造仕込と同等)
麹造り・・・手作り
仕込み・・・小仕込み主体で低温長期発酵で丁寧に醸造(南部杜氏が手掛ける東北流)
本来であればしっかりした味が出る東北流ですが、静岡県沿岸部の温暖な気候もありフルーティーな香りと、淡麗でありながらなめらかできれいな味わいが特徴のお酒になります。まろやかな風味とシャープな酸味は、魚介類との相性が抜群です。
Q 酒米は地元以外にも全国のものを使用していますね
地元の酒米だけ使うのも良いのですが、酒造があるこの辺りは人が住める平地のエリアが少なくほぼ宅地化してきています。そのため、水田地帯が少なく量産が難しいです。またせっかく全国に色んな酒米があるので、酒米毎のそれぞれの個性を引き出し味と香りのバリエーションを愉しんで頂けたらと考えています。
現在は10種類程度の酒米を使用しており、随時見直しをしています。
Q 静岡県産に限定はしてないとの事ですが、注目している品種はありますか
今はやはり誉(ほまれ)富士ですね。吟醸香が山田錦とは異なり、ブドウのような香りがし酸味がたってくるので、差別化が出来ます。
Q 「臥龍梅 両河内亀の尾 2021」に使われている亀の尾(かめのお)もありますね
栽培が難しい酒米「亀の尾」はまさにテロワール醸造として。山梨県側から流れてくる興津川の上流域、山間の田園地帯で酒米を作っていこうと、現地の農家さんや河内地区の活性化に取り組む「NPO法人 複合力」のメンバー、ボランティアの方と取り組んでいます。
Q フランスの日本酒コンテスト「KURA MASTER」で 3年連続受賞されるなど躍進されていますね
日本の場合、製造の流れ等ある程度日本酒のあるべき姿が決まっていてそこで判断されますが、海外のコンクールの場合、ソムリエの方や女性だけの審査など様々な方の主観で判断されます。特にこれから海外で飲んでもらう時、様々な味覚を持った人達にどういう日本酒が好まれるのか、食文化の不一致の中で食中酒という時の「食」とは何か、これは海外だけでなく国内でもその傾向があると考えています。一つのお酒でマルチに対応するのでは無く、蔵としてバリエーションを増やしていく事が重要、「淡麗で香りがたつ」という三和酒造のカラーを残しつつ、どの様な派生が出来るかを考えています。
スパークリング部門で賞が取れたのは、日本人は泡好きであり、現代の味が濃くてパンチのある食事に合うと思って追求してきたのが良かったです。
今まで海外に向けては受け身な体制でしたが、今後はどの様な料理に合うか食べ合わせを提案したり、こちら側からの発信にも力を入れていきたいです。
Q 日本酒スパークリングとシャンパン、どの様に違いを考えられていますか
シャンパンは酸味があって大味ですが、日本酒はより繊細で香りが全く違うと思います。
また日本酒には旨味があり、魚介の生臭さを消して美味しさを引き出してくれる特徴もあります。
発泡感はシャンパンが5ガスボリュームとしたら、日本酒スパークリングは4ガスボリュームと少し控え目、ビールよりは強目位にしています。あまり強すぎると日本酒の繊細さが薄れてきてしまうので、単独で飲んだ時に味わいをしっかり感じられるガス感を大切にしています。今後派生として強炭酸も出てくるかもしれませんが、今はそこを基本としています。
また、泡酒にはカーボネーターと瓶内二次発酵があり弊社は使い分けをしています。瓶内二次発酵で造ると泡筋が綺麗に出て見た目がきれいで楽しめ、発酵による香りの奥行きも出てきます。瓶内二次発酵の価値も大切にしていきたいです。
Q 赤色(せきしょく)酵母の日本酒を出されました。見た目にも美しいお酒ですね。
初挑戦のロゼタイプ、赤色酵母の日本酒は実験的な取り組みで始まりました。スパークリングは、飲みながらグラスに泡筋が立ち上っていきます。飲みながら酒を見て楽しめるというのは日本酒にない要素でした。
赤い色を出すには酵母、原料米、着色の3つの方法がありますが、私達は酵母を使うという手段を選びました。発酵が進みにくく度数が上がらないという苦労もありましたが、頒布会でとても良い評価を頂き商品化への自信が持てました。お酒を飲む女性が以前より増えてきているので、飲みながら目で見て楽しめるお酒も増やしていきたいです。
シャンパンやスパークリングワインと肩を並べ、食事との相性の面ではそれ以上に期待されているスパークリング日本酒の世界。スパークリングは”勝負に負けた時にも、勝利した時にも飲む酒”と言われ、まさに乾杯シーンを彩る存在です。食の多様化、グローバル化に合わせ、江戸時代から引き継ぐ伝統の技術を大切にしつつも規定の枠に囚われず新しいお酒を生み出していく三和酒造、これからどの様に発展していくのか楽しみです。
【基本情報】
三和酒造
静岡県静岡市清水区西久保501-10
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