黒龍で有名な黒龍酒造、もう一つの銘柄「九頭龍」をより自由に解き放つ
更新日:2021年9月6日
全国に先駆けて大吟醸酒を市販化した黒龍酒造。曹洞宗大本山永平寺から南に10km下った松岡と呼ばれる地にあります。創業は江戸文化元年(1804年)、かつては17の蔵元が軒を連ねた銘醸地でした。
蔵の近くを流れる九頭竜川は福井県最大の河川、清澄な雪解け水が長い年月をかけて濾過された伏流水(軟水)が蔵の仕込み水として使われており、黒龍酒造の酒の特徴でもある「澄んだ味わいと軽く柔らかくしなやかな口当たり」を生み出しています。「黒龍」という名前は九頭竜川の古名「黒龍川」が由来です。
創業当初から伝統と品格のある酒造りをし、徹底した品質管理のもと決められた特約店のみで販売を続けています。「黒龍」と言えば日本酒好きなら誰もが知っている程全国で高い人気を誇りますが、もう一つ「九頭龍」があります。改めてその魅力に迫ります。
Q.2021年4月ブランドリニューアルにはどの様な背景があったのでしょうか。
「黒龍」と「九頭龍」のうち「九頭龍」の知名度はまだまだ低い為、もっと盛り上げたいという想いでコロナ禍の前から計画していました。
実は「九頭龍」も62年前から「黒龍」の姉妹品として誕生していましたが、地元の特約店に卸すだけで知る人ぞ知る程度、ブランドとしてはあまり成立していませんでした。
2004年、黒龍酒造200周年の年に”九頭龍復活”を期待し「九頭龍 大吟醸燗酒」を発売しました。当時冷酒ブームの最中、冷やして呑む印象のある大吟醸をあえて燗用として打ち出しました。
更にそれから2年後、「九頭龍 純米吟醸」を発売、こちらも燗呑みを推奨して売り出されましたが、「九頭龍」として認知されると言うよりは、まだ「黒龍」ブランドの中の燗用ラインだと思われていました。
2015年、「九頭龍」として名が知られ始め、また「燗酒」としても認知度が高まって来た頃、「黒龍」と肩を並べるブランドとしての確立を目指しリニューアル。レギュラー商品として3つ「大吟醸」「純米」「逸品」を打ち出し、およそ全体の三分の一の出荷量を占めるまでになりました。
ただ、「黒龍は冷酒で」「九頭龍は燗で」と呑み方の違い(機能的な違い)を全面に出してブランド化していった結果、「燗酒」のイメージが強すぎて夏場の売れ行きが低迷。一方で「九頭龍」を冷やして呑む方が好きだという声も多く、「黒龍」と「九頭龍」の違いをもっと明確化し認知して頂く必要があると今回のリニューアルに行き着きました。「こだわって呑む高級な黒龍」に対して「より手頃な価格帯で自由に呑める九頭龍」と言う位置づけが確立されました。
福井県産米だけを使用し地酒として確立、「九頭龍 大吟醸」以外すべての商品が65%精米で手頃な価格帯のラインナップ。当初のイメージでもある燗の他、ロックでも、常温でもと自由な温度帯で呑めるのが魅力です。

Q.なるほど、コンセプトの通り「自由の扉をあける一杯。」ですね。
季節酒の「燗たのし」は、幅広い温度帯の燗酒として楽しめ、7月に販売開始した「氷やし酒」はオンザロックがお勧めです。18%と少し高めのアルコール度数なので他の商品に比べ甘口に仕上げていますが、呑み口はスッキリしています。
実は1997年頃からオンザロックの呑み方を推奨していたのですが、当時は辛口だった為あまり受け入れられませんでした。今回はその経験も活かせたと思います。
11月に販売予定の「垂れ口」ですが、こちらは今まであった「黒龍の垂れ口」と中身は変わっていません。日本酒初心者の方でも呑みやすく「垂れ口」から好きになってくれる方も多い為、より親しみやすい身近な九頭龍ブランドへの移行となりました。
Q.「黒龍」の位置づけは変わらずだと思いますが、どの様な点のリニューアルがありましたか。
コロナ禍の影響は意識せざるを得ませんでした。
以前は一升瓶(主に飲食店様向け)の出荷が全体の75%を占めていましたが、その売上も低迷。
昨年は飲食店様を応援したいと言う気持ちから、持ち帰り可能な150mlサイズのお酒「黒龍 大吟醸 命保水」を飲食店様限定流通で販売しました。
今回のリニューアルでは家呑み向け商品への取り組みも強化しました。手軽にお楽しみいただける300mlのラインナップを増やし、既存の150mlと合わせて小容量商品を計11種類へと拡充しました。
またブランドコンセプトを「永遠へつながる一献。」としていますが、お酒は人と人とをつないでくれると思っており、贈答用商品3種を新発売、祝の酒として「福ボトル」「干支ボトル」、父の日向けに「感謝ボトル」が誕生しました。少しでも贈る相手に想いが伝わるようにと、ラベルにも拘りました。35-55%精米で吟醸酒以上のみ、大吟醸の酒造りを突き詰めてきた「黒龍」ブランドだからこそ、品格は大切にしていきたいです。

Q.今回ブランドをリニューアルされましたが、今後黒龍酒造として変えて行きたくない部分はありますか。
「黒龍」「九頭龍」いずれのブランドも製造・流通共に今後も品質は大事にしていきたい、蔵元より代々受け継がれてきた「良い酒を造れば人は支持してくれる」と言うのは本当だと思いますしお客さんの期待を上回り続けていきたいです。
ただこれからは伝え方も大事だと思っています。七代目蔵元は品質、八代目は品質に加えどう伝えていくかを重視しています。原材料のスペックも大事だけれどブランドストーリーの発信も大事だと考えHPをリニューアル、SNSを通して想いを伝えています。
またラベルに越前和紙や越前織を使用したり、越前漆器を化粧箱に使用したりと伝統文化である地場産品をパッケージに採用、黒龍酒造がある環境や造り手の思い、ものがたり等の背景も感じながら呑んで頂けたら嬉しいです。
誰もが知る酒でありながら、それに奢ること無く時代に合わせた取り組みを続け、原材料のことを知るために自社試験田を有し、農家の方とも良い関係性を築きあげている黒龍酒造。発売時期になると取り扱いのある酒屋さんへ問い合わせが殺到するほど耐えぬ人気があるのは地道な努力の積み上げと感じられました。
【基本情報】
黒龍酒造
福井県吉田郡永平寺町松岡春日1-38