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南部美人のあくなき挑戦

岩手県内陸部北端に位置する二戸市。折爪岳の頂上や馬仙峡からは絵葉書でしか見たことがないような美しい景色が一望できます。株式会社南部美人は1902年(明治35年)醤油の醸造元として創業した後、自然に恵まれた資源を用いて酒造りを始めました。

海外販路の開拓にも積極的に乗り出し、2007年からは日本航空のファーストクラス、2013年からはエティハド航空とエミレーツ航空の機内酒として採用されているほど、海外にもその知名度を轟かせています。代表ブランド南部美人はほのかな香りが特徴の一品であり、KURA MASTER 2021年度 純米酒部門では金賞を受賞しました。今回は営業部長の三澤さんに新事業の経緯やこれからの酒蔵としての在り方などをお伺いしました。


Q. 南部美人さんと言えば、酒造業界の中でもいち早く海外に向けて発信している印象があります。その背景と現在の動向はいかがでしょうか?


代表の久慈が海外志向の強い人間であることが大きな理由だと思います。社長によると、高校生の頃にアメリカでのホームステイを経験したことがきっかけで、海外に興味を持つようになったそうです。社長は東京農業大学を卒業してから南部美人に戻り、間もなく日本酒輸出協会の立ち上げに参画しました。この協会は1997年に発足したので、酒蔵としては非常に早い動きであったと思います。私が入社した19年前も既に海外向けの輸出が盛んでした。

新型コロナウイルスの影響で、特に大きな取引先であったアメリカがロックダウンを実施し大打撃を受けました。コロナ以前は50ヶ国との取引をしていましたが、一時はゼロになってしまうほど。しかし、今年の春頃から中国の経済が復活してきたため、ようやく一安心がつくような状態になりました。


Q. 日本の味を海外でも受け入れられるようにどのような工夫をされているのですか?


海外では特別純米酒や大吟醸クラスが特に人気を博しており流通量も多いです。現地のレストランで提供しているところもあります。

日本酒の海外普及の提案だと常務のお話にも触れておきたいです。雄三常務は久慈浩介社長の実弟で、好きで止まない燗酒を自分で造っているほどです。そこで、自らニューヨークに赴き燗酒の普及に努め始めました。世界の中で温めて飲む酒というのは少ないので、海外の方たちにしてみても、新鮮な印象を受けているようだと伺っています。燗酒は肉との相性も良く、肉の油も切ってくれる点が特徴の1つ。これこそが肉中心の食生活を持つアメリカ人にも受け入れられる理由ですね。

40度・50度・60度・・・どの温度まで温めるか、急に温めるかゆっくり時間をかけて温めるかで日本酒に変化が起こります。温度変化で色々な味を試せることがワインにできない日本酒の面白さですね。

もちろん、お猪口や海外の家庭にある容器を代用しながら、熱燗の方法も指導しています。皆さん初めは驚かれますが、味わいにとても満足されています。


昔から常務が熱燗でお酒を飲むことが大好きで、次第に私達も大好きになりました。今では夏の宴会でも乾杯から熱燗を飲んでいます。熱燗におススメの商品は常務の名前がついた「雄三スペシャル」シリーズです。冷酒で飲むと味わいが弱く感じてしまいますが、温めると穏やかな香りがゆっくりと花開き心地よい味わいを感じれます。温めることで胃や腸にも優しく、翌日に酒残りが少ないですよ。

これからの寒くなる時期に是非、穏やかで温かい味わいを試してみてほしいです。



Q.今年 スピリッツへの参入が大きな話題を呼びましたね。きっかけはどのようなものだったのでしょうか?


昨年コロナ禍で高濃度エタノール製品の製造免許が解禁されたことが始まりです。日本酒の売上が例年よりも落ち込み、このままでは来年度の酒米購入量に影響が出てしまい、酒米の農家さんにご迷惑をお掛けしてしまうと思いましたね。そこで高濃度エタノール製品免許を活用し、日本酒蔵らしく酒米を使った新しいジンとウオッカを作ることにしました。

それまで清酒の製造免許しか持っていませんでしたが、新たにスピリッツの免許を取得しました。

私たちがスピリッツの参入を決めた理由はもう1つあります。それは地元に還元することです。現在は日本酒の製造量がグッと落ち込んでいる影響で、酒米農家の方たちも酒米があり余るほど大打撃を被っています。酒米を使って何かできないかと考えた結果、日本酒として使われるはずの酒米を蒸留してスピリッツのベースを造ることが浮かびました。ライススピリッツとして使用するのは、地元オリジナルの酒米「ぎんおとめ」を中心とした酒造好適米です。こうして出来上がったライススピリッツでジンとウォッカを造るにあたり、ジンにはジュニパーベリーと二戸市の「浄法寺漆」*¹をボタニカルに使用することが決定しました。また、ウォッカは平庭高原の「白樺の炭」*を使って濾過をすることで、久慈市への貢献に繋がると考えました。地元の良さもアピールしつつ、南部美人にはクラフトジンやクラフトウォッカのカテゴリもあることを知ってもらう機会になれば幸せです。



Q. これからの時代の酒蔵として大切にしていきたい想いをお聞かせください。


今流通しているお酒を丁寧に扱うことです。お客さんには迷惑を掛けられません。コロナ禍で発生した品切れや造り過ぎを起こさないように、生産量の管理は徹底していきます。また、ジンやウォッカへ参入したことで本業の日本酒の味が落ちたと言われないように務めていきます。


Q. 最後に今年度注目すべきポイントをお伺いします。


2019年に新設した馬仙峡蔵(ばせんきょうぐら)での酒造りです。馬仙峡蔵はリキュール専門のの蔵として2010年に造られました。2012年には作業用の蔵も創設され、その3年後には新たに日本酒の製造免許も下ろしてもらい日本酒を造り始めました。それまでは出来上がった日本酒をタンクローリーで本社まで運び瓶詰めしていました。2020年からは社内体制も変化し、事務所を馬仙峡蔵にも新設して本社と二拠点で運営しています。

また、本社で造ったお酒も馬仙峡蔵に運んで瓶詰めしてから出荷するようになりました。

ここでの注目ポイントは設備の良さです。パストライザークーラーという火入れ装置を導入し、生の状態で瓶詰めされたお酒を65℃まで一気に上昇させて殺菌し、その後に急冷却

出来る様になりました。普通の火入れ殺菌の場合にはこの工程を2回繰り返さなければなりませんが、この装置を導入してからは1回で済む様になりました。

           

これによりお酒が空気に触れる機会が減り、品質を保持することに繋がります。この品質の高さを武器に、清酒でもスピリッツでも海外を牽引する存在になっていきたいですね。




*¹日本一の生産量を誇り日本遺産にも認定されています。

*²岩手県の平庭高原は日本一の白樺美林と言われています。


【基本情報】

株式会社南部美人

URL:https://www.nanbubijin.co.jp/



社名・ブランド名の由来は所在地が江戸時代に南部藩領(南部地方)に属していたこと、

「綺麗で美しいお酒を造りたい」という思いからその名をつけたのだそう。


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